原題:Sharp Objects
作品データ
ジャンル:ミステリー
シーズン:1(完結)
エピソード:8(完結)
主な舞台:ミズーリ州
アメリカでの放送:2018
メモ:視聴済
ストーリー
セントルイスで記者をしているカミール・プリーカーは、編集長の指示で故郷ウィンド・ガップで起きた少女殺人事件の記事を書くことになった。心ならずも帰郷の途に就いたカミールは、自身のトラウマに苦しむことになる。少女時代を過ごしたウィンド・ガップの思い出は、カミールにとって苦いものでしかない。
母アドラはカミールを歓迎せず、義理の父アランもよそよそしい。年の離れた妹のアマだけは、久しぶりに会った姉に興味を示す。広大な土地に建つビクトリア朝のカミールの生家は、閉鎖的なこの町に君臨するアドラそのものだった。そしてその家には亡くなった妹マリアンの思い出が息づいている。
アルコールでストレスとプレッシャーをごまかしながら取材を進めるカミールは、被害者たちと同年代のアマが気にかかる。よみがえる記憶に苦しみながら取材を続けるカミールは、よそ者の刑事リチャードと親しくなる。
おちゃのま感想
原作は、『ゴーン・ガール』の作者ギリアン・フリンの処女作『Sharp Objects』(邦題は『KIZU―傷―』)です。
全8話と短いシリーズですが、見終わるまでに時間がかかってしまいました。連続少女殺人事件の真相に迫りながら、心身ともに傷ついたカミールが抱える問題を描いてゆくという流れで、古傷がずっとじくじくうずく・・・そんな気持ちにさせられる内容でした。カミールの闇が徐々に明かされる展開は、見ているこちら側も精神的に追い詰められます。
重苦しい気持ちにさせられた原因は、カミールの母アドラと妹アマの存在そのものです。久しぶりに帰郷したカミールに対するアドラを始めとする家族の態度や空気がとっても冷たいんです。それでも支配的な母や、我儘で外面の良いアマを受け入れるカミールが理解できず、もどかしくなります。しかし、それこそが、このドラマのテーマでした。理性で割り切れない絆で繋がり、他人が立ち入ることのできない領域である“家庭”という小さな集団は、まるでカルトのような存在だと、静かな訴えが伝わってきます。
やがて、カミールの体にある自傷行為の傷痕が生々しく、痛々しく明かされ、それには繰り返し描かれる子供の頃に亡くなった妹マリアンの死が関係しているとわかります。そして、その原因は母アドラでした。疎まれつつも実家に泊まり、生意気なアマに付き合っていたのは、アマの危うさの中に母の影響を見たからだったのです。
アドラは代理ミュンヒハウゼン症候群で、子供を支配し虐待する母親でした。アドラの“従えば楽になる”という思考と、夫アランの読めない心情には恐怖しました。この夫だからこそアドラの虐待が成立し、アドラがアランを選んだ理由もそこにあるのだろうと想像できます。閉鎖的な町の環境や、アドラが町の実力者という点も、虐待を助長させる要因になっていました。
少女殺人事件の解決とともに、身を挺してアマを守るカミールの犠牲で、アドラは逮捕されます。ハッピーエンドのように見えて、ラストまで気が抜けない展開でした。エンドロールが始まっても終わりではありません。誰かが助けられたはずなのに、助けることができなかった命。その誰かは“自分”だったという負い目。事実から目を背けるほうが楽だという無意識の意識。背筋が寒くなる真相とともに、深い問題を提起して終わったように感じます。
程度の差はあれど、誰の中にも存在する支配欲、承認欲求に目を向けさせられる、そんなドラマでした。