原題:The Little Drummer Girl
作品データ
- ジャンル:スパイスリラー
- シーズン:1(完結)
- エピソード:6(日本では8話に分けて放送)
- 主な舞台:ヨーロッパ
- アメリカでの放送:2018
- メモ:視聴済
ストーリー
1979年。西ドイツのイスラエル外交官の家が爆破される事件が起きた。爆破時、偶然屋外へ出ていた外交官の証言で、爆弾を運んだ実行犯はパレスチナ人テロリスト、ハリールの弟サリムと恋人のアンナだと判明する。
この事件をきっかけに、長年ハリールを追っているクルツはモサド上層部と交渉し、チームを立ち上げた。ハリールに近づくためのシナリオを考えたクルツは、サリムの集会に参加したことのあるイギリス人の女優チャーリーに目を付けた。
報復に駆られる部下を諭しながら、クルツは辛抱強く爆破の実行犯サリムと恋人アンナの監視を続ける。その頃、所属する劇団のスポンサーに招かれ、ギリシヤに滞在しているチャーリーは行く先々で見かける謎の男性に興味を惹かれていた。男はクルツの部下ギャディだった。
ラストの内容
チャーリーはハリールの信用を得ることに成功し、ロンドンでのテロを阻止した。ハリールがチャーリーを気に入ったと知ったクルツは潜入続行を決断する。ようやく姿を見せたハリールを逮捕せず、泳がせることでこの先何年もチャーリーを利用しようと考えるクルツにギャディは反発する。
任務続行を命じられたチャーリーは怒りを覚えながらも、ハリールの愛を確実なものにするため身を投げ出した。しかし、用心深いハリールは定時に牛乳配達が来ないことに不信を抱き、チャーリーの正体を知ることになる。
チャーリーが信条もない単なる女優だと知り愕然としたハリールを、隠れ家に踏み込んだギャディが射殺した。潜入作戦の終了とともに、クルツのチームはチャーリーがつかんだ情報をもとに組織のキャンプを攻撃し、監視していた協力者たちを始末した。しかし、テロは終わらない。
イスラエルのリゾートで寛ぐチャーリーに贈り物が届いた。中にはタバコとウォッカが入っている。ギャディが任務よりも自分の命を優先してくれたと知ったチャーリーは、タバコの箱に隠されていた住所を訪ねた。クルツのもとを離れたギャディと再会したチャーリーは、出会いのシーンから始めた。
おちゃのま感想
ジョン・ル・カレ原作のスパイドラマ。
ネット社会のスパイドラマとは一味も二味も違う、まさに辛抱のスパイドラマでした。
同じル・カレの作品『ナイト・マネジャー』との比較になってしまうのですが、『ナイトマネジャー』のスパイのパイン対悪のローパーという明確な図式に対し、『リトル・ドラマー・ガール』のほうは政治や思想がベースにあり、“目には目を・・・”な物語で、感情移入しにくかったです。そして、『ナイトマネジャー』同様に、チャーリーがスパイになってゆく様に違和感が残りました。しかし、物語のテーマが女優のチャーリーがテロ組織に潜入するというものなので、この部分は呑み込んで見るしかありません。
見どころは、時代背景もあり、スパイ役のチャーリーは自力で乗り切るしかないというところ。ネット社会ではないので、サポートはほぼ皆無の状況での潜入です。命がけの潜入をただただ迫真の演技で切り抜けるチャーリーが物語を引っ張りました。
これは良かった!と思う点は、このチャーリー役のフローレンス・ピュー(Florence Pugh)の普通っぽさです。抜群のスタイルでも、魅惑の美女でもなく、だからこそのリアルさでした。この女優さんを起用した点が、このドラマのすべてのように感じるほどです。政治も思想も信仰も関係なく、個人的な事情もなく、巻き込まれるようにスパイになったチャーリーの苛立ちや、戸惑い、欺く演技は見事でした。
そして、チャーリーの相手役ギャディの抑えた演技もよかったです。ギャディ役のアレクサンダー・スカルスガルド(Alexander Skarsgard)は、『ビッグ・リトル・ライズ』のペリー役で見たのですが、全くの別人。立ち姿で感情を伝え、チャーリーが演じる物語に真実味を与える重要な役目を担っていました。
あくまで“芝居”や“演技”にこだわったテーマを考えると、このドラマの伝えたいことは、クルツのモサド側も、ハリールのテロリスト側も、他国が勝手に行った外交の波紋の渦に巻き込まれ、戦いという舞台にあげられてしまった…という深いものがあったのかな…と想像させられます。なので、あえて善悪を明確に表現せず、“報復は正しいことなのか”と、疑問を投げかけているのかもしれません。
ちなみに第4話にル・カレがカメオ出演しているらしいんですが、ポンドしか持ってないと言うチャーリーの代わりにギャディが支払ってくれるシーンの“すもも酒”カフェのおじさんがそうでしょうか?