原題:Toutes ces choses qu’on ne s’est pas dites(All Those Things We Never Said)
作品データ
- ジャンル:ロードムービー風コメディ
- シーズン:1(完結)
- エピソード:9
- 主な舞台:パリ、ブルージュ、ベルリン、マドリード
- リリース:2022年
- キャスト:ジャン・レノ(父ミシェル)アレクサンドラ・マリア・ララ(娘ジュリア)
- テーマ:人生のセカンドチャンス、真実の愛
- メモ:最終話まで視聴済
- お気に入り度:
あらすじ
婚約者アダムとの結婚式を数日後に控えたジュリアは、疎遠だった父ミシェルの訃報を受け取る。結婚するはずだった日が父の葬儀の日になったジュリアは悲しむこともできず、葬儀の参列者がたった5人(そのうち父の関係者はひとりだけ)しかいない父に同情もできない。
葬儀の翌日、深い溝ができてしまった父に思いを馳せるジュリアのもとに、思いもよらぬプレゼントが届く。大きな箱の中に入っていたのは、父ミシェルと瓜二つのアンドロイドだった。完全なミシェルの記憶を持つアンドロイドによると、最先端のアンドロイドを作るハイテク企業に投資したミシェルは、“死後にあと数日を提供するサービス”を思いつき、まず自分のアンドロイドを試作したのだ。
「言えなかったことを伝えるため」とミシェルの目的を語るアンドロイドは、与えられた時間は6日間だと教える。父のことを知るチャンスがなかったジュリアはアンドロイドとふたり、新婚旅行で行くはずだったブルージュへ向かう。アンドロイドと旅するうちに、ジュリアは父に引き裂かれた初恋をたどり、想像しなかった父の愛を知ることになる。
おちゃのま感想
あまり見ることのないフランスドラマをチョイスしたきっかけは、パリ、ブルージュ、ベルリン、マドリードというヨーロッパの風景を楽しみたい気持ちからでしたが、これが大当たり!美しい風景はもちろんのこと、内容が本当に素晴らしかったです。
第1話の導入部分が少しまだるっこしい感じではありましたが、アンドロイドとジュリアの旅が始まる2話目からは予想外に深くなってゆく物語から目が離せなくなりました。『疎遠のまま亡くなった父そっくりのアンドロイドと旅する娘の物語』と聞いて、ナンセンスなドタバタコメディを想像しましたが、そうではない展開に驚くばかり。ジャンルはコメディだけど、描かれているのは主人公ジュリアと父ミシェルそれぞれの愛の歴史でした。ジュリアとアンドロイドが旅をしている2005年と、1989年頃のジュリアの初恋。社会状況が異なるふたつの時代の物語を重ねながら描くことで、止めることのできない時間の流れを実感させる演出は秀逸です。
ジュリアの初恋の背景には歴史上の大きな出来事“ベルリン壁崩壊”があり、東ドイツ人のトマスとの出会いもこの東欧革命を象徴する出来事があったからこそ。激動の時代に出会ったふたりが強烈な感情で結びつき、同じ未来を夢見ることは自然な流れ。そんなふたりの仲を引き裂いたのは父ミシェルだったわけですが、その理由をいまになって知るジュリアの心の揺れを想像すると、切なくなります。ミシェルが娘の初恋に水を差した理由は、トマスが気に入らないわけではなく、東ドイツという国が信じられなかったから。アンドロイドとの旅を通じて当時の父の思いを知ったジュリアの心の揺れを、アレクサンドラ・マリア・ララさんがとても自然に演じてくれてます。やり場のない感情を持て余すジュリアの困惑した雰囲気は、このドラマの見どころのひとつでした。
さて、アンドロイドに背中を押されたジュリアは死んだと思ってた初恋の君トマスと再会を果たすのですが、ここでハッピーエンドにならないところがミソ。さらに想像を超えて急展開してゆく結末までの流れの素晴らしさ。大団円で終わるラストは、コミカルな種明かしに泣き笑い必至でした。
恥ずかしくなるくらいガツガツした感想になってしまいましたが、本当に素敵なドラマでした。父ミシェル&アンドロイド役のジャン・レノが牽引する俳優陣の演技も素晴らしく、登場人物が少なくてもチープさはなし。ちなみに、いい味だしてたジュリアの親友ロベール役は、原作・脚本・製作総指揮を務めているフランスの作家マルク・レヴィさんでした。さらに付け加えると、心がパリへ飛んでゆくかのようなオープニングのタイトルバックもセンスのよさも光ってました。一期一会という言葉が心に浮かぶドラマに出会えたことに感謝しつつ、思い入れありすぎる感想を終わりにします。