原題:The Patient
作品データ
- ジャンル:心理スリラー
- シーズン:1(完結)
- エピソード:10
- アメリカでの配信:2022
- キャスト:スティーヴ・カレル(アラン)ドーナル・グリーソン(サム)
- メモ:最終話まで視聴済
- お気に入り度:
あらすじ
セラピストのアランは、治療を望みながらも肝心な話を避ける患者ジーンに拉致される。森の中に建つジーンの家に監禁されたアランは鎖で繋がれ、動ける範囲はベッド周辺のみ。困惑するアランの前に現れたジーンは「本名はサムだ」と明かし、自分の問題について語り始める。
通常のセラピーでは打ち明けられない“殺人の衝動”という大きな問題を抱えるサムは、「セラピーの効果を出すには、言いにくいことも話さないといけない」というアランの助言に従い、真実を打ち明けるため、セラピストのアランを拉致監禁したのだ。
サムはアランも知るシリアルキラーだった。否応なくサムのセラピーをすることになったアランは置かれた状況を受け入れつつ、自身の家族との問題に向き合うことになる。
おちゃのま感想
治療を求める連続殺人犯と、その連続殺人犯に囚われたセラピストの2人芝居を見ているかのような演出で、設定はいたってシンプルですが、ふたりの内面を描きながら結論に繋げる流れが秀逸なドラマでした。
アランのセラピーで殺人衝動を制御できるようになったとしても、サムが連続殺人犯という事実は変わらないので、物語の結末に明るいものは望めません。そう分かっていても、セラピーで変化するサムに期待を捨てきれず、ラストまで目が離せない展開でした。
結末にかすかな希望を抱いた理由は、シリアルキラーだとしてもサムに人間性を感じられたからかもしれません。衝動に任せ人を殺す殺人鬼のサムですが、同居している母親や別れた妻に対しては(サムなりの)愛情があり、アランとの間にはある種の絆が生まれていたと思います。
視聴者であるわたしの甘い幻想を打ち砕く結末を選んだのは、囚われたアラン自身でした。常に冷静にサムと向き合っていたアランですが、自らの死を早い段階で悟っていたように感じます。想像の世界で自分を保とうとしているアランが見るアウシュヴィッツのビジョンは、アランがこの状況から逃れられる唯一の手段は自らの死だと悟ったことを示唆しているようでした。
見どころは、もちろんアランとサムそれぞれの葛藤ですが、素晴らしいと思ったポイントは周囲の人々の描き方です。まるでふたりの背景のように作品の中に溶け込み、部屋に飾ってある絵画のようにアランとサムの世界に存在しているのです。特にアランの想像の中で描かれる過去シーンは、その内容とは裏腹な静寂さがありました。
結果的に、サムは母を人質にしたアランを殺しますが、殺人の衝動を抑えたいと望んだサムに嘘はなく、セラピーの効果はあったと思っていいのかな?という結末でした。(サムとはいっさい関係なく)アランの想像の中で再現される息子とのこじれた問題は、サムがアランのセラピーで学んだ証に繋がり、やるせない結末の中にあるすこしばかりの安らぎに感じました。
伝えたいことを想像するのは難しい作品ですが、兎にも角にもアラン役スティーヴ・カレルとサム役ドーナル・グリーソンの演技は必見です。(ドーナル・グリーソンはゴールデングローブ賞のリミテッドシリーズ助演男優賞にノミネートされました)